本記事では、膨大なデータを分析・解析を行うためにAIの導入を検討している人向けに、ニューラルネットワークの仕組みや関連用語などを中心に解説します。また、活用事例も紹介するので、今後のAI導入の参考にしてください。
ニューラルネットワークとは?
「ニューラルネットワーク(neural network)」とは、脳の神経回路の動作を模した数理モデルです。脳神経細胞である「ニューロン」を数学的に表現したコンピューティングシステム技術で、主に画像や音声をパターン(特徴)を識別するのによく用いられます。
ニューラルネットワークは機械学習や深層学習(ディープラーニング)の関連技術として紹介されることが多いですが、その違いは後ほど詳しく説明します。
ニューラルネットワークの歴史
機械学習におけるアルゴリズムの一つである「ニューラルネットワーク」は、AI(人工知能)の概念が誕生した1950年ごろにはありましたが、人間の脳のはたらきを模倣するという高度なシステムを実際に作るとなると膨大且つ複雑な処理を要すため、当時のコンピュータの性能や技術力では処理に追い付かず、難しくなかなか実現されませんでした。しかし、今ではマシンの性能も上がり、スーパーコンピュータを使わなくても複雑な処理ができるほどになりました。それまで人間が行っていた処理も任せられるのでAI需要の高まりとともに、その技術を支えるニューラルネットワークへの期待も高まっています。今後もより活用の幅が広がるでしょう。
ニューラルネットワークの仕組み
ここからは、ニューラルネットワークが具体的にどう動作しているのか、その仕組みについて解説します。
異なる役割を持つ複数の層で構成される
ニューラルネットワークは、分析の元となるデータが入力される「入力層」、入力されたデータの分析を行う「隠れ層」、データを出力する「出力層」の3層で構成され、脳神経系のように細かく結びついています。
隠れ層を何層も持つことで、より複雑かつ高度な処理が可能になります。
隠れ層で情報の重みが設定できるため、隠れ層の数を増やすことで、複雑な判断や細かな処理が可能になります。ディープラーニングの「ディープ」は、ニューラルネットワークの隠れ層について言及しており、報を処理する隠れ層の階層が多い、つまり深いことを意味しています。
「重み」という調整手法を使って結果を出力する
脳の神経回路はニューロン(神経細胞)が「シナプス」を介して繋がっており、情報の伝達を行っています。そして、その情報の伝わりやすさは、接合部であるシナプスの結合強度で変わります。脳の神経回路を模したニューラルネットワークにおいては、層と層の間のニューロン同士の結合強度を「重み」と表現し、入力されたデータに適した重みを設定することで正しい出力結果を得ています。各ニューロンには、学習で調整された重みが割り当てられますが、この重みづけの値は学習手法によって変わってきます。
自力で学習し正解を目指す
ニューラルネットワークでは、「正解」を導くため、重みづけを調整しながら、自力で繰り返し微調整を行います。
ニューラルネットワークの種類
ニューラルネットワークの種類における代表的なものをいくつか紹介します。
ディープニューラルネットワーク(DNN)
ディープニューラルネットワークは、ニューラルネットワークを多層化させたデータ生成モデルでもっとも主流な深層学習モデルです。
ビッグデータが扱いやすくなったことやGPUなどのコンピュータの計算処理能力が上がったことで大規模なDNNの構築が可能になり、真価を発揮するようになりました。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
畳み込みニューラルネットワークは、何層もの深いノードを持つDNNの一つで、特に画像認識処理で優れた性能を発揮します。抽出された特徴データを畳み込み層でさらに特徴の凝縮したデータを作成し、プーリング層で集約します。
再帰型ニューラルネットワーク(RNN)
再帰型ニューラルネットワークは、データの記憶ができ、時系列データやセンサーデータも扱えるDNNの一つです。「リカレントニューラルネット」や「フィードバックニューラルネット」とも呼ばれます。文章翻訳や株価予測など、連続的なデータを扱う場合に優れた性能を発揮します。
LSTM
LSTM(Long Short Term Memory)は、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の進化形となるデータ生成モデルで、長期依存ができます。
データとそれを利用する場面が離れるほど連携が難しかったRNNに対して、LSTMでは、LSTMブロックを導入することでその問題を解決しました。時系列データの予測でその特性を発揮します。
敵対的生成ネットワーク(GAN)
敵対的生成ネットワークは、データから特徴を学習し、擬似的なデータを生成できるモデルです。画像分野において深層生成モデルとして話題になりました。
Generator(生成ネットワーク)とDiscriminator(識別ネットワーク)という二つのネットワークを競わせながら精度を高めます。これによって本物と見分けがつかないほど高精度な疑似データを生成できます。
オートエンコーダ(自己符号化器)
オートエンコーダは、データの次元を削減・圧縮することで入力データと最終的な出力データが一致させることを目的とした教師なし学習のデータ生成モデルです。学習過程で入出力のデータが一致するようエッジの重みを調整します。
入力層・隠れ層・出力層のそれぞれのノードと、それをつなぐエッジで構成されています。入力データが隠れ層に圧縮される段階で重みづけが行われ、点数の低いデータは除外(エンコード)されるという仕組みになっています。また、隠れ層から出力層へデータが送られる際も重みづけされ、複数のエッジから受け取ったデータを合計値として出力(デコード)されます。
このように、復元に必要なデータのみを抽出するといった次元削減・特徴抽出の機能をもつ「エンコーダ」と低次元のデータからデータを復元する「デコーダ」のプロセスを踏むことで効率的にネットワークを形成ができます。異常検知や画像のノイズ除去に利用されています。
機械学習・深層学習との違い
ここからは混同されやすい3つそれぞれの違いや、関係性について解説していきます。
機械学習
機械学習は、AI(人工知能)を支える学習手法の1つです。AIに膨大なデータを学習させることでデータの分析や解析からパターン(特徴)や規則性を見つける技術を指します。機械学習では、さまざまなアルゴリズムを用いて大量のデータから反復的に学習することで大量のデータを解析・分析することで特徴を見つけ出せるため、判別が可能になるのです。ニューラルネットワークも機械学習のアルゴリズムの一つです。
深層学習とは?(ディープラーニング)
深層学習(ディープラーニング)とは、人間が自然に行う情報処理をコンピュータでニューラルネットワークというアルゴリズムを何層も用いてデータ処理を行う、機械学習の手法の1つです。ニューラルネットワークの隠れ層も従来は2~3層程度でしたが、現在では数百に増えたことで、特徴量の抽出精度や予測精度を向上にもつながりました。現時点でも、かつてないほど高いレベルの認識精度を実現しており、人間の認識能力を超えるまでに至っています。
ニューラルネットワークを何層も使ってデータ処理を行うことでほかの学習方法よりも複雑な判断や細かな処理ができるのが特徴で、ディープラーニングの「ディープ」という表現も情報を処理する階層が多い、つまり深いという意味です。
人工知能の発展を支える技術であり、現在では画像認識や音声認識などさまざまな分野で実用化が進んでいます。自動運転車での標識や電柱、人間の認識や、電話やテレビ、スマートスピーカーなどの音声認識にもディープラーニングが使われています。
機械学習とディープラーニングの違いは?
機械学習はAI(人工知能)を支える機能の1つで、データの分析や解析からパターン(特徴)を見つける技術を指します。
一般的な機械学習では、この特徴量を抽出するためのルールをコンピュータに教える必要があります。
一方で、情報処理を多層的にすることで、特徴量の抽出とモデリングは自動的に行い、識別の精度をより上げているのがディープラーニングです。
ニューラルネットワークを学ぶ上で知っておくべき関連ワード
パーセプトロンとマルチレイヤーパーセプトロンとは?
ニューラルネットワークに関して調べていると、必ずといっていいほど「パーセプトロン」と「マルチパーセプトロン」という単語が出てきます。ここからは、この2つについて解説します。
パーセプトロン
パーセプトロンとは、複数の入力データに対して、一つの値のみを出力するアルゴリズムです。2層で構成される「単純パーセプトロン」と3層以上で構成される「多層パーセプトロン」がありますが。現在は後者の多層パーセプトロンが主流となっています。1943年に誕生した世界初の神経細胞モデル「形式ニューロン」を用いて、1958年に誕生し、第一次AIブームを牽引しましたが、カバーできない部分も多く、人気も下火傾向となりました。
マルチレイヤーパーセプトロ
先述した、3層以上で構成される「多層パーセプトロン」のことです。入力層と出力層の間に「隠れ層」を入れ、多層構造にすることで「単純パーセプトロン」よりも膨大且つ複雑な処理が可能になりました。「単純パーセプトロン」の発展系として、第二次AIブームを牽引しました。
ニューラルネットワークの学習手法
ニューラルネットワークの学習手法のなかでも代表的なものを3つ紹介します。
Dropout法
Dropout法とは、一定割合のノードを不活性化(0にする)させて学習することで過学習を防いで精度を上げるという学習手法です。わかりやすく言うと、一度学習したデータの一部をわざと忘れさせるという感じです。
確率的勾配降下法(SGD)
重みを調整して出力結果を正解に近づける学習手法を「確率的勾配降下法(SGD)」といいます。正解に近づく確率の高い方向を導き出しています。
誤差逆伝播法
誤差逆伝播法は、正解のデータと実際の出力データに生じた誤差をもとにネットワーク全体を学習する手法で現在最も主流な学習手法となっています。
ニューラルネットワークの活用事例
ニューラルネットワークはさまざまな分野に導入され、活用されています。代表的な活用例を紹介します。
- 自動翻訳の精度向上
- 道路やトンネルの損傷検知
- 内視鏡検査の画像診断
- 自動運転システム
- 株価や天気の予測
- 品質管理
- コメント解析
- 顔認証
自動翻訳の精度向上
ニューラルネットワークを利用することで文章をパーツごとではなく、文章全体を一つの文として翻訳できるので、単語ごとに区切って翻訳された文章よりも全体を把握した内容になり、より正確な訳語を見つけやすくなります。2016年にGoogle社が「Googleニューラル機械翻訳システム」という機械翻訳技術を導入し、翻訳エラーの55~85%削減に成功するなど、翻訳の質を劇的に向上させました。
道路やトンネルの損傷検知
ニューラルネットワークの技術を使って道路やトンネルの傷やひび割れ、汚れといった損傷検知ができます。損傷の特徴パターンをニューラルネットワークで読み込むことで画像認識の精度の向上を実現しています。
内視鏡検査の画像診断
医療分野においては、内視鏡検査の画像診断で活用されています。ニューラルネットワークの技術によって解析スピードが向上する上に小さな異常も識別できるようになり、病気の早期発見に貢献しています。実際に、6mm以上の胃がんを約98%の精度で発見できるなど、5~25%といわれていた見逃し率が軽減しました。
自動運転システム
自動運転システムの開発でもニューラルネットワークの技術が画面認識機能に使用されています。ニューラルネットワークは、画像認識を得意としており、歩行者や障害物までの距離をリアルタイムで計算するので事故を未然に防いで安全な走行が可能になります。
株価の予測
専用のニューラルネットワークを用意すれば株価の上昇・下落の予測も可能です。
顔認証
顔認証機能にもニューラルネットワークの技術が用いられています。空港の入国ゲートや遊園地の入場ゲートなどで使われ、手続きがスムーズになりました。また、老化や化粧で顔に変化がある場合でも認識できるのも大きな特長といえます。
AIの勉強方法は?
書籍やインターネットで学習する方法があります。昨今では、YouTubeなどの動画サイトやエンジニアのコミュニティサイトなども充実していて多くの情報が手に入ります。
そして、より効率的に知識・スキルを習得するには、知識をつけながら実際に手を動かしてみるなど、インプットとアウトプットを繰り返していくことが重要です。特に独学の場合は、有識者に質問ができたりフィードバックをもらえるような環境があると、理解度が深まるでしょう。
ただ、AIに限らず、ITスキルを身につける際、どうしても課題にぶつかってしまうことはありますよね。特に独学だと、わからない部分をプロに質問できる機会を確保しにくく、モチベーションが続きにくいという側面があります。独学でモチベーションを維持する自信がない人にはプログラミングスクールという手もあります。費用は掛かりますが、その分スキルを身につけやすいです。しっかりと知識・スキルを習得して実践に活かしたいという人はプログラミングスクールがおすすめです。
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