2023年3月15日、新制度での基本情報技術者試験が開始されました。本記事では、試験の取得を考える人に向けて
・基本情報技術者試験とはどんな試験なのか
・新制度の変更内容
・試験の難易度や問われる内容
・試験を取得することで得られるメリット
・基本情報技術者試験の勉強法
といった内容を中心に解説します。ぜひ参考にしてみてください。
基本情報技術者試験とは
基本情報技術者試験とは、IPA (情報処理推進機構) が実施する国家試験「情報処理技術者試験」の一つで、ITエンジニアの登竜門とも呼ばれており、年間 10 万人以上が受験する人気のある資格です。
資格の難易度は、情報処理技術者試験で 4 段階あるレベルのなかでも下から 2 番目の「レベル 2」にあたり、初心者でも努力次第で合格可能です。このように、基本情報技術者試験は、ITエンジニアとしてのキャリアをスタートする第一歩的な資格であるため、取得後はその上位資格にあたる応用情報技術者試験の取得を目指す人も多いです。
もともと会社の指示で受験するエンジニア層が多かったものの、昨今の DX 化推進や新型コロナウイルの流行に伴い、人々のなかで ITスキルが欠かせないものだという意識が高まったことで自己啓発を目的に受験する人も増えました。
試験取得に向けた学を通して、ITを活用するのに必要な基礎的な知識やスキルが体系的に学べるため、今後の応用力の幅が格段に広がります。また、知識やスキルを有する証明にもなるので、ITエンジニアを目指す人にはその第一歩としておすすめの資格です。
基本情報技術者試験の変更点(2023年4月~)
2023 年 4 月から基本情報技術者試験の内容が大きく改変されたのはご存じでしょうか。
政府は、DX 推進に必要なデジタル人材を増やすことを目的として、デジタル人材が備えるべき基礎教養の詰まった国家資格である基本情報技術者試験の制度変更が行われたのです。
ここからは、2023 年 4 月以降の試験の変更点について説明していきます。
変更前 | 変更後 | |
実施時期 | 上期/下期の年 2 回 | 通年 |
採点方式 | 素点方式 | IRT方式 |
試験科目名 | 午前試験 午後試験 | 科目A試験 科目B試験 |
出題形式 | 午前試験 (小問形式) 試験時間 : 150 分 出題数 : 80 問 解答数 : 80 問 | 科目A試験 (小問形式) 試験時間 : 90 分 出題数 : 60 問 解答数 : 60 問 |
午後試験 (大問形式) 試験時間 : 150 分 出題数 : 11 問 解答数 : 5 問 ※選択問題あり | 科目B試験 (小問形式) 試験時間 : 100 分 出題数 : 20 問 解答数 : 20 問 ※全問回答必須 |
年2回実施から通年受験可能に
基本情報技術者試験は、これまで上期 (4-5月) と下期 (10-11月) の決められた期間内でのみ実施されていましたが、2023年4月より、通年の実施に変更となりました。また、2020年 12 月以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でペーパー方式からコンピュータ上で問題が表示され、マウスやキーボードを用いて回答していく CBT 方式も導入されました。
これにより、都合の良い日時や会場を選び、万全な状態で試験に臨むことができるようになります。また、通年で受験できるため、再挑戦もしやすくなります。現に CBT 方式導入前の合格率は 25 % 程度でしたが、導入後は 40 % 程度まで上昇しています。
採点方式にIRT方式を採用
これまでは配点割合が決められていましたが、新しい基本情報技術者試験では、IRT (Item Response Theory:項目応答理論) に基づく採点方式に移行されます。合格基準点については、従来は午前試験・午後試験のどちらも 100 点満点中 60 点以上を取る必要がありました。一方、科目A試験・科目B試験ではどちらも 1,000 点満点中 600 点以上取る必要があります。どちらも合格基準点が「6 割以上」と、同じ条件のように見えますが、採点方式に IRT 方式が導入されるという点に留意しましょう。
IRT 方式とは、従来の 1 問何点といった明確な採点方法ではなく、どの程度の人が正答できたかといった統計情報によって配点が調整したり出題の順番を変えたりする仕組みです。IRT 方式を用いることで、異なる試験問題でも、公平な採点ができるため、受験者の実力をより正確に測れるようになり、試験時期や試験内容の違いによる有利・不利が生じにくくなります。
IRT方式は「ITパスポート試験」にも採用されおり、IT パスポート試験の状況を見ても、導入前後で合格率も小幅の上昇にとどまっているので、基本情報技術者試験でも合格率に大きく作用するとは考えにくいでしょう。
科目A試験と科目B試験で、出題形式が異なる
これまで「午前試験」「午後試験」に分かれていた試験が、「科目A試験」「科目B試験」という名称に変わり、出題形式も変わっています。
科目A試験は、問題数が 20 問減り、60 問になりました。ただ、試験時間も 150 分から 90 分に変更されたため、これまで1問あたりにかけられる時間が 1.875 分から 1.5 分になったため、よりスピーディな判断力が求められます。
科目B試験は、大問形式から小問形式に変わり、以前は選択問題がありましたが、変更後は小問 20 問の全問回答が必須となりました。従来の午後試験に比べ、CBT 方式に適した短い問題文になっていますが、100 分で 20 問を解くには 1 問あたり 5 分程度で解答する必要があります。スピーディ且つ正確に問題文を読み解けるかが突破の鍵となるでしょう。
出題範囲の変更
今回の変更点で最も大きな箇所は科目B試験の出題範囲です。
これまでは、大問が 11 問から、必須選択の「情報セキュリティ」、「データ構造及びアルゴリズム」、「ソフトウェア開発(プログラム言語)」に加えて、選択問題 2 問の計 5 問という解答形式でした。
科目B試験は「データ構造及びアルゴリズム」(擬似言語による出題)が 8 割と「情報セキュリティ」が2割で出題されるようになります。
擬似言語による出題に統一
従来の午後試験の必須選択問題「ソフトウェア開発(プログラム言語)」において、個別のプログラミング言語 (C、Java、Python、アセンブラ言語、表計算ソフト) による出題がありましたが、科目B試験では廃止され、擬似言語による出題に統一されます。これは、プログラミング言語の知識よりも、普遍的・本質的なプログラミング的思考力が問われる試験に変わるということです。また、表記方法についても、従来の▲や■を使用した表現から、while や if を用いた表現に変更されます。
サンプル問題は下記ページより確認できます。
IPA(情報処理推進機構)
基本情報技術者試験で問われる内容
科目A試験と科目B試験、それぞれの出題範囲について説明します。
科目A試験 | 科目B試験 | |
出題内容 | 60 問出題 (四肢択一) 3 要素から出題 | 20 問出題 (多肢選択) データ構造及びアルゴリズム16 問 情報セキュリティ 4 問 |
各科目で問う内容 | 知識を問う | 技能を問う |
合格基準 | 600 点以上で合格 / 1000 点満点 | 600 点以上で合格 / 1000 点満点 |
出題形式 | CBT 方式 | CBT 方式 |
科目 A 試験の出題範囲
科目A試験は、全 60 問の四肢択一式になります。出題範囲としては、これまでの「午前試験」に準じ、テクノロジ系、ストラテジ系、マネジメント系の 3 つの要素から出題されます。
テクノロジ系 | コンピュータ構成要素、データベース、セキュリティ、システム開発技術など |
マネジメント系 | プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、システム監査など |
ストラテジ系 | システム戦略、経営戦略、法務など |
このように開発に直結する技術だけでなく、ビジネス知識などの幅広い分野の基礎知識が問われます。
詳しい出題範囲については下記ページを参照してください。
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_13download/youkou_ver5_0.pdf
科目 B 試験の出題範囲
科目B試験は、多肢択一の長文読解問題で「アルゴリズムとプログラミング」と「情報セキュリティ」の 2 つの分野から20問出題されます。
データ構造及びアルゴリズム | プログラムの要求仕様の把握、プログラムの処理の基本要素、データ構造及びアルゴリズム、AI などの諸分野へのプログラミングの適用など |
情報セキュリティ | 情報セキュリティ要求事項の提示、マルウェアからの保護、脆弱性管理、利用者アクセスの管理、運用状況の点検など |
従来から重要とされてきた上記 2 分野に絞られたということになります。この変更によって科目B試験の出題範囲から外れた範囲も科目A試験で求められる知識です。基本的なアルゴリズムやデータ構造に関する知識や実装方法、プログラミングの作法などが求められるため、プログラミング経験があると有利な分野といえます。
詳しい出題範囲については下記ページを参照してください。
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_13download/youkou_ver5_0.pdf
試験の運営元である IPA (情報処理推進機構)から科目A試験の過去問題と科目B試験のサンプル問題が公開されています。
受験費用・試験実施時間
受験費用
税込 7,500 円です。
試験実施時間
各会場により異なりますが、最大で10:00~21:00で実施されています。
成績紹介・合格発表・合格証の交付
成績照会
試験終了2~3時間後に、マイページで科目ごとの評価点を確認できます。
合格発表
受験月の翌月中旬に、合格者の受験番号を情報処理推進機構のHPで掲示されます。また、マイページで確認することもできます。
合格証の交付
合格者の受験番号が官報に公示され、合格者に対して経済産業大臣から合格証書が交付されます。
得られるメリット
IT知識の基礎が幅広く身につくだけでなく、さまざまなメリットを享受できます。
資格手当が得られる場合もある
国家試験合格者数でその企業の技術力を誇示できるため、基本情報技術者試験を表彰対象試験や推奨資格にする企業が増えています。
就転職に有利になる
基本情報技術者試験は数あるIT関連資格のなかでも知名度の高い国家資格で、企業にとっても客観的な指標となります。そのためIT業界で仕事を探す上でも有効な証明となり、その後の展開が楽になるでしょう。
基本情報技術者試験の勉強法
基本情報技術者試験の勉強時間の目安は出題範囲の広さからおよそ 200 時間といわれています。国家試験の勉強時間としては決して長いほうではありません。
ただ、この 200 時間というのはあくまでも目安であって、実際に必要となる勉強時間は、ITに関する知識やスキルがどの程度あるかによって大きく変わります。IT 知識のある人であれば50時間程度で合格できるかもしれません。200 時間は、毎日 3 時間ずつ勉強すれば約2か月間、50時間であれば毎日2時間勉強すれ約1か月間で終了できるということになります。また、隙間時間の利用や休日における集中的な学習で学習期間は短くできるでしょう。
基本情報技術者試験は、出題範囲が広いのでいかにカバーするかが重要になってきます。出題範囲を網羅した参考書や学習サイトなどを利用して苦手な分野を重点的に取り組むようにしましょう。そして、一通り知識をインプットした後は必ず過去問を解くなどしてアウトプットをする練習も大切です。せっかく蓄積した知識もアウトプットできるようにしておかなければ、実際の試験には対応できません。問題を解くことで弱点を発見・克服しながら学習を進められます。このように、インプットとアウトプットを繰り返すことで、知識が定着しやすくなります。
また、試験本番と同じように制限時間を設けて問題を解いていけば本番の試験でも落ち着いて取り組めるでしょう。
科目A試験にあたる午前試験は、半数程度が過去問題から出題される傾向にあったため、まずは過去問をたくさん解くことが科目A試験するカギとなります。
科目A試験の免除制度を活用すると科目B試験に集中できる
科目A試験にあたる午前試験には免除制度がありました。これはIPAに認定された講座を受講、または、民間資格(IPA審査問題)を取得し、修了試験に合格することで「午前試験」が 1 年間免除されるという制度です。この制度は今後も「科目A試験免除制度」として継続されることとなっています。
※既存の講座で修了試験に合格した場合も、免除期間は有効となります。
これまでは午前試験と午後試験を別日に分けて受験できていましたが、今回の変更で試験時間が短縮され、同日受験しなくてはならず、長丁場です。この制度を活用して、科目B試験に集中するのも一つの手です。
IPA 提供問題の修了試験日の実施時期は6月、7月、12月、1月の年4回です。
詳細は下記URLから確認してください。過去問も掲載されています。
https://www.ipa.go.jp/shiken/about/menjo-fe.html
これまでの試験勉強は新制度に活用できる?
科目A試験は、旧午前試験と出題範囲は変わらないため、制度変更前の勉強で得た知識を活用できます。科目B試験に関しても、旧午後試験で解答が必須だった「情報セキュリティ」と「データ構造およびアルゴリズム」が出題の中心になるため、これまでの勉強は役に立ちます。
一方で、「情報セキュリティ」と「データ構造およびアルゴリズム」以外の旧午後試験対策として勉強した知識に関しては、基本情報技術者試験で活用できる可能性は低くなってしまいます。ただ当然として、ITエンジニアとして活躍する上では必要な知識となるため、無駄だったということは決してありません。
まとめ
基本情報技術者試験は、ITエンジニアにとってまず取得しておきたい資格です。難易度としてはそれほど高くありませんが、出題される範囲も広く、決して簡単な試験ではありません。しかし、この資格を取得すればIT知識の基礎が身につくだけでなく、さまざまなメリットが得られるでしょう。
従来は年に2回しかなかった基本情報技術者試験が通年化されたことで、自分の都合に合わせて受けられるようになり、受験のハードルが下がりました。変更点が多く、従来の方式に慣れている人は戸惑うこともあるかもしれません。試験の改変により、試験時間も出題数も減り、体力的な負担は軽減されますが、1問当たりの所要時間は短くなります。変更点に留意してしっかり試験対策をし、合格を目指しましょう!
今後は自宅のインターネットで受験可能になる?
IPA は 受験のハードルを下げて、受験者を増やそうと、2022 年 10 月から IBT 方式 (インターネットでの試験) の実証実験をスタートしました。2023 年度中の導入は見送られていますが、今後の導入が期待されています。