近年、リモートワークの導入も進み、業務の一部をクラウドサービスに移行する企業が増えています。そして、その一つである Microsoft社が提供するクラウドサービス「Microsoft Azure(アジュール)」もシェアを急速に伸ばしています。
本記事では、Azure について、そのメリットやできることについて解説します。
Azureとは?
Microsoft Azureは 2010年からMicrosoft社が提供しているパブリッククラウドプラットフォームです。
サービス開始時点では「Windows Azure」という名称でしたが、2014年に「Microsoft Azure」に改名、現在もサービスを提供しています。
クラウドサービスはインターネットを経由することでサーバやネットワーク、ストレージ、アプリなどを利用できるサービスを指します。
Azure にも 200 を超える製品やクラウドサービスがあり、その組み合わせによって業界や規模を選ばず、幅広いシステム開発、運用に役立っています。
Azureの利用によって性能や安全性の高いサーバやネットワークを利用でき、既存のオンプレミスサーバと連携させることもできます。また、IoT や AI の機械学習、データ分析、ブロックチェーンといった分野にも強く、導入する企業が増えています。
つまり、Azure はユーザの抱える課題を解決し、未来を「創造」するためのプラットフォームをクラウド上で提供するサービスだといえます。
ちなみに、Azureには、「青空」、「空」という意味があることから、「雲」を意味するクラウドのサービスであることにちなんで、「雲が浮かべる空」と捉える人もいます。
Azureが提供するクラウドサービス
クラウドサービスにはさまざまな種類がありますが、Azureが提供しているサービスは「IaaS」、「PaaS」と呼ばれる分野のものです。
ここからは、その 2つについて説明します。
IaaS(イアース)
IaaSは「Infrastructure as a Service」の略称で、クラウド上でサーバやネットワーク、ストレージといったシステムインフラを提供するサービスを指します。しかし、これだけではシステムが稼働しないので、アプリケーションを用意する必要があります。また、サーバ管理や設定に関する知識も必要になってきます。ただ、自由度が高く、カスタマイズできる幅が広いのはメリットといえます。
PaaS(パース)
PaaSは「Platform as a Service」の略称で、アプリケーションを稼働させるためのデータベースやプログラムの実行環境などをクラウド上で提供するサービスを指します。IaaS と同様に、アプリケーションを用意しなくてはなりません。ただ、OS は用意する必要がないので環境構築のハードルは下がります。
ちなみに、Microsoft社は Azure の提供する IaaS や PaaS 以外に SaaS というクラウドサービスも提供しています。
SaaS(サースまたはサーズ)
SaaSは「Software as a Service」の略称で、それまではPCにインストールしなければ使えなかったアプリケーションをクラウド上で提供するサービスです。
Office 365 や OneDrive がこの SaaS に該当します。
カスタマイズできる範囲は狭いですが、専門知識不要ですぐに利用を始められます。
Azureの市場シェア
2010年のサービス開始から11年経った2021年の第4四半期におけるクラウドサービス市場のシェアは 21%となり、33%の AWS に次ぐ 2位になっています。その目覚ましい成長ぶりがグラフからも見て取れますね。
このように、トップシェアを誇る AWS を猛追する勢いを見せているのは、Microsoft Officeなど、多くの Microsoft 社製品との親和性が高いことが大きな要因でしょう。
Azureの利用料金
Azure をはじめとするクラウドサービスの大多数は、リソースの利用時間や利用量によって価格が変動する従量課金制をとっています。ユーザはハードウェアを購入する必要がなく、必要な機能を自由に組み合わせて必要な分だけ利用量を調整できるので、結果的に無駄なコストを払わなくて済むのです。
ちなみに、無料で利用できる機能(Azureアカウントが必要)や長期契約割引、エンタープライズ向け割引なども用意されています。
Azureでできること
Azureには 200種類を超えるサービスが存在し、ユーザの目的に対応するさまざまな機能が備わっています。
なかでも、代表的なものを紹介します。
AI + machine learning
人工知能の能力を活用したアプリケーションの作成を行うサービスです。
この機能を使えば機械学習モデルの構築やイメージの分析などを簡単に行えて、顧客の行動予測やコストの削減、リスクの軽減ができます。
主なサービスには、問題が発生する前に予測する「Anomaly Detector」、写真に含まれる顔の検出や識別などを行う「Face API」などがあります。
DevOps
効率的なソフトウェア開発、運用のサポートを行うサービスです。
主なサービスには、アプリやネットワークに対して監視を行う「Azure Monitor」、作成したパッケージをチームで共有できる「Azure Artifacts」などがあります。
ID
ユーザの ID やアクセス権を管理することで脅威から保護するサービスです。
主なサービスには、機密情報を厳重に保護する「Azure Information Protection」などがあります。
Web
Web アプリケーションをスピーディーかつ効率的に開発、デプロイ、スケーリングするサービスです。
主なサービスには、Web およびモバイル向けのアプリを作成する「App Service」、マップや位置情報データなどをソリューションに追加する「Azure Maps」などがあります。
コンピューティング
Azureのクラウド上での仮想マシンの作成やスケーリング、アプリのコンテナ化や管理を行うサービスです。
主なサービスには、サーバを管理せずにAzureでコンテナを実行する「Container Instances」などが含まれます。
ストレージ
安全性の高いクラウドやストレージを利用でき、仮想マシンにおけるストレージの確保やデータ移行の際に使われるサービスで、安全性や拡張性に優れています。
主なサービスには、データをランサムウェアから保護する「Azure Backup」や Azure Storage リソースの表示や管理を行う「ストレージ エクスプローラー」などがあります。
セキュリティ
脆弱性の発見やサイバー攻撃への対策、セキュリティ管理の統合を目的とするサービスです。
主なサービスには、DDoS攻撃からリソースを保護する「Azure DDoS Protection」やマルチクラウド環境やハイブリッド環境を保護する「Security Center」などがあります。
データベース
データの種類や容量に合った多様なサービスがあります。高セキュアで急速な成長にも対応できます。
主なサービスには、あらゆるスケールに対応できるオープンAPI を備えた NoSQL データベース「Azure Cosmos DB」、大規模なハイブリッド データ統合を簡易化する「Azure Data Factory」などがあります。
ネットワーク
オンプレミスとの接続や各種リソースとの接続を行うサービスです。
主なサービスには、安全で可用性の高い Webフロントエンドを Azure で構築する「Application Gateway」や安全なクロスプレミス接続を確立する「VPN Gateway」などがあります。
IoT
モノをインターネットに繋いだことで得られる分析情報を検出し、最適解を見出し、ビジネスの変革を図るサービスです。
主なサービスには、概念実証から価値実証に移行する「Azure IoT Central」、IoT データをリアルタイムで視覚化する「Azure Time Series Insights」などがあります。
分析
収集したあらゆる種類や量のデータを処理し、分析、視覚化するサービスです。
主なサービスには、クラウドの機能を活用し、モバイルアプリをスピーディーに作成する「Xamarin」、高速で拡張性の高いデータを探索する「Azure Data Explorer」などがあります。
Azureを利用するメリット
日本の法律が適用される
トラブルが発生した場合、日本の法律が適用されます。Azureでは準拠法が日本の法律となっており、管轄裁判所も東京地方裁判所となっています。また、サーバの設置場所も日本に限定することもできるので日系企業にとっては安心感がありますね。
日本円で支払いができる
Azure の提供元である Microsoft社の本社はアメリカにありますが、Azure は日本円での支払いに対応しています。
毎月の料金を為替の影響を受けずに、慣れ親しんだ日本円で支払えるのは安心感がありますね。
ただし、支払い方法はクレジット決済のみに対応しているため、クレジットカードは必須です。
既存サービスとの連携が簡単
Windows製品やOffice 、Microsoft 365といった Microsoft 社が提供しているサーバやサービスとの親和性が高いのは Azure 最大のメリットとも言えます。簡単に連携できるため、新しいシステムの導入やオンプレミスからの移行作業もスムーズに行えるため、結果としてコストの削減にもなるでしょう。
Microsoft社のサービスや Windowsサーバをお使い場合、親和性の高い Azure をおすすめします。
高セキュア
Azureは、Microsoft社は、セキュリティ関連の研究開発に年間10億ドルを投資し、世界中に約3,500名のサイバーセキュリティの専門家が常に Azure のデータセンターやインフラ設備の監視を行っています。また、最新テクノロジーを駆使し、世界の 5か所に政府機関や企業と連携したサイバー犯罪対策の研究拠点「サイバークライムセンター」を置くなど、高いセキュリティ性を保持しています。
世界最大規模のネットワークによって可用性と拡張性が確保される
Microsoft 社では、「マイクロソフトグローバルネットワーク」という世界最大規模のネットワークを保有しており、Azure もこのネットワークを介して提供されています。
Azure は、世界の 60か所以上の地域に160以上のデータセンターを構え、日本国内でも、東日本に 2か所(東京、埼玉)と西日本に 1か所(大阪)存在します。それらが相互接続されているため、いずれかの地域で災害が発生した場合でも他の地域のサーバがリカバーすることによってシステムの安全稼働が可能になります。
また、何兆もの要求に対応できるなど、拡張性も高く、全世界のユーザに安全かつ迅速なサービスを提供されています。
Azureを導入する際の注意点
利用することによって多くのメリットを享受できる Azureですが、導入する際いくつか注意すべき点があります。
目的の設定
Azureを導入する背景は企業によって異なり、使い方もそれぞれです。目的を達成のためにはどの機能が必要でどの機能が要らないか検討し、十分に Azure を活用するには何を実現させたいかをはっきりさせておく必要があります。
知識や技術
繰り返しになりますが、Azure には多種多様な機能が備わっています。また、日々、アップデートも続けられています。たくさんある機能を持て余さないためにも、データベースやサーバの知識や技術を身につける必要があります。
その指標として Microsoft社によるシステムやサービスごとの資格制度も設けられています。
通信環境の整備
Azure に限らず、クラウドサービスはインターネット経由で運用や管理を行うので、通信環境に依存します。万が一、トラブルが生じた場合は使用できなくなる可能性があります。そういったトラブルのリスクを軽減するには、導入の際、通信環境を整備しておく必要があります。
Azureが向いている企業
Azure以外にも、AWSやGCPなどのクラウドサービスがありますが、Azureに適しているのはどのような企業なのでしょうか。ここからはAzureを導入すべき企業について解説します。
Windows製品やMicrosoft社製のソフトウェアを利用している企業
前述したように、Azure は自社製品との親和性の高いクラウドサービスです。そのため、Windows製品や Microsoft365 などの Microsoft社から出ているソフトウェアを利用している場合、Azure への同期や移行がしやすいです。また、一部の製品に関しては、ライセンスをそのままに Azure への移行することも可能です。
高い可用性や拡張性を要するWebサービスを提供する企業
Azure は、世界最大規模のネットワーク「マイクロソフトグローバルネットワーク」によって高い可用性や拡張性があるのが特徴です。Azure を利用することで、安定的に稼働する Webサービスや Webサイトの構築や運用が可能になります。
機密情報を扱う企業
AzureはIDやアクセス権限の管理などの、セキュリティ保護に関するサービスを豊富に提供しており、セキュリティ対策を入念に行っています。そのため、セキュリティレベルの高い Azure は、個人情報などの機密事項を取り扱っている企業にも適しています。