ITストラテジストは、企業の経営戦略を実現するため、IT戦略の策定・提案・推進を主導する「戦略家」です。そして、そういった業務を遂行するための知識・スキルを習得することを目的とした「ITストラテジスト試験」がIPA(情報処理推進機構)によって実施されています。本試験によって取得できる資格はCIO (最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)、ITコンサルタントを目指す方に最適な資格です。
ITストラテジスト試験とは?
ITストラテジスト試験とは、システム開発の最上流工程で企業課題の抽出・業務効率化・IT戦略立案を行う高度IT人材としてのスキルを認定する国家試験です。IPAの実施する情報処理技術者試験のなかでも最難関といわれており、年一回春期(4月)に実施されています。※令和元年度まで秋期実施
もともと「システムアナリスト試験」と「上級システムアドミニストレータ試験」という2つの試験が別々に実施されていましたが、これらが2009年に統合され、現在の「ITストラテジスト試験」になりました。
ITストラテジスト試験はIT戦略に重点を置いているのが特徴で、ITに関する基礎知識だけでなく、それを活用して策定する能力を問われます。そのため、上流工程の中でも更に上流部分で必要となる経営戦略などに関する知識を中心に出題されます。反対に、プログラミングなどの技術的スキルは問われないので、合格者のなかにはエンジニア経験がない人もいます。
弁護士や医師のように特定の資格がなければ従事できないということではありませんが、非常に難易度が高いため、信頼性の高い資格です。
近年のDX推進によって、人気が高まっているIT資格です。
ITストラテジスト試験の難易度は?
[試験区分]
ITストラテジスト試験は、IPAが定めるレベル区分でも最上位にあたるレベル4に分類されます。
ただ、同じレベル4の試験のなかでも
・ITストラテジスト試験
・プロジェクトマネージャ試験
・システム監査技術者試験
の3試験に関しては、一段と難しいという印象を持つエンジニアも多いようです。これにはわけがあって、上記の3試験は2008年まで適応されていた旧区分で「レベル5」に属していたことが影響していると考えられます。2008年以降は4段階のレベル区分に変更され、どれもレベル4になりましたが、かつての名残でそういった印象を持たれているようですね。
公式では明言されていませんが、こういったIT業界全体での共通認識もあり、取れると「すごい」と思われる資格のようです。
また、4つの試験があることや、午後Ⅰ試験が記述式、午後Ⅱ試験が論述式であることなども難易度を押し上げています。
ITストラテジスト試験の概要
ここからは、実際に受験を考えている人に向け、試験の概要について説明していきます。
試験時間・出題形式・出題数・解答数
午前Ⅰ | 午前Ⅱ | 午後Ⅰ | 午後Ⅱ | |
試験時間 | 9:30~10:20 (50分) | 10:50~11:30 (40分) | 12:30~14:00 (90分) | 14:30~16:30 (120分) |
出題形式 | 多肢選択式 (四肢択一) | 多肢選択式 (四肢択一) | 記述式 | 論述式 |
出題数 | 30問 | 25問 | 4問 | 3問 |
解答数 | 30問 | 25問 | 2問 | 1問 |
午前I、午前Ⅱ試験は全問回答、午後Ⅰ、午後Ⅱ試験に関しては設問を選択して解答します。
2023年10月の試験からの試験要綱の変更に伴い、令和6年(2024年)度春期試験からITストラテジスト試験の人材像や出題構成、午後の出題数が変更になります。
具体的には、午後Ⅰ試験、午後Ⅱ試験の組込み分野(IoTソリューションの企画・要件定義・設計・開発等)の出題がなくなりました。
令和5年春期に行われる試験まではITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験の3試験でそれぞれの人材像の役割に対応する工程を担うという構成でしたが、令和6年以降はエンベデッドシステムスペシャリスト試験に集約されます。
これに伴い、ITストラテジスト試験の出題数も変更となり、午後Ⅰ試験は3問、午後Ⅱ試験は2問となります。
試験範囲
◎は重視点分野を指しています。
午前Ⅰ試験(共通問題)
午前Ⅰ試験は高度試験で共通の問題が出題されます。応用情報技術者試験と同じレベル3程度の問題が出題されます。
テクノロジ系
→基礎理論、コンピュータシステム、技術要素、セキュリティ◎、開発技術
マネジメント系
→プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント
ストラテジ系
→システム戦略、経営戦略、企業と法務
午前Ⅱ試験
技術戦略マネジメントと法務以外は午前Ⅰ試験よりも高度なレベル4程度の知識が問われます。
テクノロジ系
→セキュリティ◎4
ストラテジ系
→システム戦略(システム戦略◎4、システム企画◎4)
経営戦略(経営戦略マネジメント◎4、技術戦略マネジメント○3、ビジネスインダストリ◎4)
企業と法務(企業活動◎4、法務○3)
午後試験
午後試験では、午前試験と異なり、実践的な内容が問われます。
・ITを活用した戦略の策定
・システム戦略・システム化計画の策定
・個別システム化計画の策定
・報システム戦略の実行管理と評価
詳細については以下の試験要綱・シラバスを参照してください。
[試験要綱]
[シラバス]
採点方式・配点・合格基準
ITストラテジスト試験は素点方式で採点され、午前Ⅰ、午前Ⅱ、午後Ⅰ、午後Ⅱの各試験の得点がすべて基準点以上の場合に合格となります。
試験区分ごとの配点は、午前Ⅰが30問であるため、1問あたり3.4点、午前Ⅱは25点なので1問あたり4点、午後Ⅰ試験は1問50点、午後Ⅱ試験はA~Dの評価ランクによるものとなるため、配点割合はありません。
各試験の得点が基準点に達しない場合は、その後に行われた試験の採点はされずに不合格となります。
受験料金
受験手数料は7,500円です。
受験者数・合格者数・合格率
以下の表は、直近6回分の受験者数・合格者数・合格率・合格者平均年齢を表した表です。
受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) | |
平成29年度秋期 | 4,747 | 700 | 14.7 |
平成30年度秋期 | 4,975 | 711 | 14.3 |
令和元年度秋期 | 4,938 | 758 | 15.4 |
令和3年度春期 | 3,783 | 579 | 15.3 |
令和4年度春期 | 4,450 | 660 | 14.8 |
令和5年度春期 | 4,972 | 769 | 15.5 |
[統計資料]
受験者・合格者平均年齢
平成29年度秋期 | 平成30年度秋期 | 令和元年度秋期 | 令和3年度春期 | 令和4年度春期 | 令和5年度春期 | |
受験者平均年齢 | 41.1 | 39.7 | 41.3 | 41.6 | 41.9 | 42.2 |
合格者平均年齢 | 39.0 | 39.7 | 39.0 | 40.3 | 39.3 | 40.3 |
[平均年齢]
合格率は14~15%で推移しており、合格者平均年齢が40歳前後であることからも、IT業界や現場での豊富な実務経験もしくは、それに相当する学習時間がなければ容易には突破できない試験だということが分かります。
ITストラテジスト試験を取得するメリットは?
実力を証明する指標になる
IT戦略に関するスキルは定量的にアピールしづらいですが、こういった難関資格を取得することで、高度なスキルを客観的に示すことができます。これにより、好条件での転職が叶ったりと、キャリアアップにも役立つでしょう。
資格手当や報奨金がもらえる
企業によっては、合格者に対して、資格手当や一時金などの報奨金を付与する制度を設けています。相場としては資格手当が10,000円〜20,000円/月、報奨金はおよそ120,000円です。
試験の一部免除が受けられる
ほかの資格試験で一部免除制度が受けられます。具体的には以下のようなものがあります。
- 中小企業診断士試験
第1次試験科目の一部免除 - 弁理士試験
論文式筆記試験選択科目(理工Ⅴ(情報))の免除 - 技術士試験
第一次試験の専門科目(情報工学部門)の免除 - ITコーディネータ(ITC)試験
ITコーディネータ試験の一部が免除される専門スキル特別認定試験の受験が可能
ITストラテジスト試験の合格のコツは?
午前Ⅰ試験
午前Ⅰ試験の問題は、ほとんど同時期に行われる応用情報技術者試験の午前試験からの流用が大半を占めます。応用情報技術者試験の過去問をひたすら解き、間違えた箇所を復習して覚えなおすという学習方法がおすすめです。
過去問は公式ページに掲載されています。
[過去問題]
ちなみに、受験者の半数以上が、午前Ⅰ試験を免除しています。
以下に該当する人であれば、この免除制度が2 年間有効です。
(1)応用情報技術者試験に合格する。
(2)いずれかの高度試験又は支援士試験に合格する。
(3)いずれかの高度試験又は支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績を得る。
ITストラテジスト試験は4つの試験があり、長丁場になるため、少しでも負担を軽減するよう上記免除制度の該当者には積極的な利用をおすすめします。
午前Ⅱ試験
こちらも過去問からの出題が多いため、過去問演習を行いましょう。
午前Ⅰ試験よりも深い知識が求められますが、出題範囲は狭く、そのほとんどがストラテジ系の問題であるため、対策はしやすい傾向にあります。
きちんと問題や選択肢の意味を理解するようにしましょう。
また、最新事例に関する問題も出題されるため、情報収集を欠かさず行いましょう。
午後Ⅰ試験
短時間で正しく読解する練習を行い、そして短い文字数で簡潔に解答する練習、それから演習量をこなして解答スピードを上げていくというのがおすすめです。
設問に対して簡潔にまとめて解答する能力が求められます。問題文にヒントが散りばめられていることが多く、解答例も問題文にある単語をそのまま使用したものが多くあります。
午後Ⅱ試験
午後Ⅱ試験では、特定のテーマに関して2時間で3つの設問で合わせて約3000文字を書き、その上で、自分の考えや経験などを他者にわかりやすく伝える必要があります。
また、知識や文章構成力に加えて経営者の立場を意識した論述ができているかという点も意識しなくてはなりません。
まずは、文章を書く構成力を身につけることです。それぞれの設問に対する内容を箇条書きで書き出し、そこから肉付けしていくのがコツです。
当日にテーマを見て一からアイデアを考えて、文章化するのは現実的ではありません。頻出のテーマについては「この内容をこの順番で書く」といった論述ネタをいくつか持っておくというのもおすすめです。
ITストラテジスト試験の勉強方法は?
書籍やインターネットで学習する方法があります。昨今では、YouTubeなどの動画サイトやエンジニアのコミュニティサイトなども充実していて多くの情報が手に入ります。
そして、より効率的に知識・スキルを習得するには、知識をつけながら実際に手を動かしてみるなど、インプットとアウトプットを繰り返していくことが重要です。特に独学の場合は、有識者に質問ができたりフィードバックをもらえるような環境があると、理解度が深まるでしょう。
ただ、これに限らず、ITスキルを身につける際、どうしても課題にぶつかってしまうことはありますよね。特に独学だと、わからない部分をプロに質問できる機会を確保しにくく、モチベーションが続きにくいという側面があります。独学でモチベーションを維持する自信がない人にはプログラミングスクールという手もあります。費用は掛かりますが、その分スキルを身につけやすいです。しっかりと知識・スキルを習得して実践に活かしたいという人はプログラミングスクールがおすすめです。
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